- 2016-2-18
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全米最大のレビューサイトRotten Tomatoes™で満足度97%という破格の数字をたたき出し、各国の映画祭でも熱く支持されたドキュメンタリー映画『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』が、いよいよ日本に上陸! 94歳にして多くの有名デザイナーたちからリスペクトされ、今なおNYのカルチャーシーンに影響を与えるアイリス・アプフェルのインタビューが到着しました!
ⓒIRIS APFEL FILM, LLC.
Q:この映画の話が来たとき「NO」と断ったと聞きました。それが「YES」に変わったのは監督や製作陣とどのような対話があったのでしょうか?
アイリス:私が断り続けた理由は軽薄なファッショニスタとして取上げられたくなかったし、メイズルス氏(本作の監督アルバート・メイズルス)とは顔見知りではなかったから。再三にわたって電話をしてくるので、友人のリンダ・ファーゴ(バーグドルフグッドマンのファッション・オフィスのシニア・ヴァイス・プレジデントでウィメンズ・ファッションのディレクター)に話をしたら、彼女に「断るなんてとんでもない話! メイズルス氏が撮影するといえば誰もがYesと言うほどの人よ」とたしなめられたの。でも、すでに彼には断ってしまっていたし、どうしよか?と悶々としていた時に、また彼から電話があって、「私のスタジオで会って欲しい」と言われて、ハーレムの彼のオフィスまで会いに行ったの。
そこで彼と彼の撮影スタッフに会ったのだけど、撮影スタッフもとても気持ちの良い人たちだったので、出ることに決めたのよ。付き合いが長いというだけで友人になるとは限らないわ。会った瞬間に分かり合える人っているでしょう? 友人とはそういうものだと思うわ。
Q:劇中、メイズルス監督と古くからの友人のように温かく接していましたね。撮影に際して「こうしてほしい」など、あなたからの要望やアイデアがあったのでしょうか。または監督の方からこう撮りたいなどの要望がありましたか。
アイリス:彼にはスクリプトも何もなくて、私から提案したアウトラインだけで撮影が始まったの。撮影の時、彼はいつも「あなたが何か興味のあることは? 何かやりたいことがある?」と聞いてきて、その時に私が「これこれがしたい」とか、その時興味のあることを彼に言って撮影していくというスタイルだったのよ。この映画の撮影には4年かかったの。
お互いに時間が会わなかったり、彼が病気で入院したり、私がヒップの手術をしたりしたから。すごく沢山撮影したけれど編集でかなり短くなってしまっています。この映画の部分の他にもまだたくさん撮影した素材があるので第2弾もできるはずだと思うわ。
Q:ホワイトハウスの内装を9代に渡る大統領在位期間任されていたそうですね。具体的にどのような部屋の内装を監修したのですか?また、この一大プロジェクトに抜擢されたいきさつを教えてください。
アイリス:ホワイトハウスの内装に関しては皆、誤解している部分があるので説明します。私は内装をデザインしたのではなく、ホワイトハウスの内装の修復に携わったのです。私の作業は、ホワイトハウスにはホワイトハウスの外観も内観も建造当時のままを維持する歴史保存委員会があって、その委員会の要望に従って、建造当時のオリジナルを忠実に再現していくことでした。
そのため、たとえばカーテンや椅子などの生地は、私たちの会社(Old World Weavers)でオリジナルに忠実に製作し直して使用し、生地の修復を主に行ったのです。それぞれの大統領夫人たちは、自分たちの趣味ではない、とかむちゃくちゃなことを言ってきたり、自分の趣味を押し通そうとしたけれど、ほとんどの夫人は、良い趣味の持ち主じゃないし、ホワイトハウスのインテリアは彼女たちにはどうすることもできないのよ。私がホワイトハウスの修復の仕事を受けた理由は、昔の家や建造物が好きだし、ホワイトハウスの仕事はプレステージが高いし、それに、いつも同じ事ばかりするのは好きじゃないからよ。
Q:映画のポスターになった、写真家ブルース・ウェバーによるポートレイト写真が格別です。彼との出会いやお付き合いについて教えてください。
アイリス:ブルースに会ったのは8年前。パーム・ビーチの美術館で私の展覧会が行われていた時で、イタリアン・ヴォーグがその展覧会と私のフィーチャー・ストーリーを企画し、そのストーリーの写真家としてブルースが任命されていたの。イタリアン・ヴォーグが撮影を予定していた時期と私の予定が合わなかったのだけど、カメラがブルースと聞いて、撮影してもらうことにしたの。それが私とブルースの出合いで、それから親しくなったの。彼は本当に素晴らしい人で心から尊敬できる人。ブルースが私の家に来たとき、ぬいぐるみや玩具、クリスマスの飾り付けなどを見回して「Perfect apartment for kids!」と言って楽しそうにはしゃいでいたわ。
彼もフロリダに家があるし、彼の可愛い犬たちにも会ったことがあるわ。私も犬好きだからね。彼の犬は残念ながらみな癌で亡くなったのよ。ブルースのフロリダの敷地にはビーチサイドに犬のための家まであるのよ。でもあの犬たち、ビーチで変なものをとって食べたりするから病気になったのじゃないかしら…? 彼の犬は全部ゴールデン・リトリバーなのだけど、一匹だけ黒い犬がいるの。彼のフロリダの家に迷い込んできた犬なのだけど、ブルースはその犬に“ビリー・ホリデイ”という名をつけて可愛がっているのよ。ブルースは慈善活動にもとても熱心で、本当に人間のできた人だと思うわ。
Q:あなたは世界中を旅して貴重な工芸品やテキスタイル、衣服を買い付けられていましたが、お気に入りの国や都市、思い出の買い付けのエピソードなど教えて下さい。
アイリス:昔はカール(2015年100歳で亡くなったご主人)と一緒に毎年、6月から9月までの三ヶ月間、船で旅行していたの、飛行機は嫌いだったから。日本には行く機会がなかったけれど。私が好きな場所は中近東や北アフリカ。アメリカでもヨーロッパでもないカラフルでエスニックな雰囲気を満喫できるところが好きなの。
私はフリーマーケット・フリークだから中東やモロッコの市場はもちろんのこと、パリやヨーロッパのフリーマーケットも大好き。年々、掘り出し物はなくなってしまっているけれど、それでも市場は大好きよ。ここパーム・ビーチでもフリーマーケットには良く出かけるのよ。何かを買う時の決め手は、“I love or not love” で物を買うときも人目ぼれ。何でもあれこれ迷うのは大嫌い。ただお金が足りるかしら? と思うことあるけれど。即決できない人と買い物に行くのは本当に苦痛だわ。
私はミッキーマウスが大好きなのだけど、カールは私に一度もミッキーマウス(ぬいぐるみ)を買ってくれなかったの。そこで90歳になって、たまたまコストコに行った時に大きなミッキーマウスのぬいぐるみを見つけたの。それで、もう買うしかない! と思って買ったのがコレ。
(そう言って、お宅のアンティークのグランドピアノの前に坐ってピアノを弾いている風に置かれているミッキーマウスの大きなぬいぐるみを紹介してくれました)
ⓒIRIS APFEL FILM, LLC.
Q:現在も毎日忙しく働いていらっしゃいますが、お仕事の極意・働き続けることの意味“これだからやめられない!” とか、人との出会いなどを教えて下さい。
アイリス:私はいつも何かしていないとダメなの。魚のヒレみたいに。一日中、居間に座って何もしない事ほど辛いことはないわ。
このクリスマスはカールが亡くなって初めて一人でクリスマスを過ごしたのだけど、本当に憐れだったわ。仕事は辛いこともあるけれど、ハードワークであればあるほど私は楽しくハッピーになれる。私にとってハードワークは全ての良薬ね。人がリタイアを考えるというのは誤りだと思うわ。
Q:人が幸せに生きるために必要な条件は何だと思いますか、いくつかご教示下さい。
アイリス:自分自身を知ること。“Know who you are”良き友をもつこと。自分の好きなことをすることができること。自分の嫌いな仕事をしなければならないのは悲しいことよね。私は幸い私の好きなことをやってくることが出来たわ。それに、とても素晴らしい結婚生活を送ることができたわ。
でもいつもハッピーだと何がハッピーだか分からなくなるから、時には悲しい事も必要ね。そうするとハッピーということはどういうことか分かるから。人の人生には酷いことが必ず起こるもの。家族を亡くしたり、友人を亡くしたり、仕事を無くしたり。私にとって主人を亡くした事はとても辛いこと。仕事をすることは私にとって、その辛さを乗り越えることでもあるの。だから働き続けるの。
そして人にはファニー(面白い)な部分が必要なのよ。ユーモアのセンスを持ち合わせていない人はハッピーな人生を送れないと思うわ。
Q:ファッションと生き方において、それぞれ影響を受けたと思う著名人は誰ですか?
アイリス:特定な人はいないわね。
Q:好きなファッションデザイナーを3人くらい教えて下さいますか?
アイリス:私はフェレ(ジャンフランコ)の大ファンで、彼が生きていた頃はよく彼の服を着ていたわ。デコラティブな服よりもシンプルで構築的な服が好き。だって私はアクセサリー・フリークだから、 デコラティブでないシンプルな方が私の持っているアクセサリーを上手くスタイリングができるから。そして美しい生地の極上のカットのシップルな服が好き。シンプルで美しいコートやドレスを作るのはとても難しいことだから、それが作れるデザイナーはとても才能があるし凄いと思うわ。
今いるデザイナーでは、ラルフ・ルッチ(Ralph Rucci)、ナイーム・カーン(Naem kahn)、アナ・スイ。アナは素晴らしいデザイナーだと思うわ。彼女の服は私には少し若すぎるけれど。彼女のベストやコートを持っていて着ているわ。カール(ラガーフェルド)はいいデザイナーだと思うけれど、好きな服の時と嫌いな時があるわね。それから、だいたい私はシャネルは着ないの。あの服は何か私じゃないから、着たとしてもとても不自然になるから。
Q:この先ぜひチャレンジしてみたいと思うことは何でしょうか?
アイリス:何事もすべてチャレンジだと思っているので、何でも、いつでも全てが私にとってチャレンジ。チャレンジするのが大好き。私は計画を立てて物事を進めたりしないの。私がやりたいと思ったことを提案すると「やりなさい」と言ってくれる人たちが出てきて、それの繰り返しでやってきたから。94歳になった今でも、いろいろな仕事のお声をかけてくれる人たちがいる。そのことを本当に感謝しているわ。
Q:いまあなたが注目しているクリエイターは誰でしょうか?
アイリス:思いつかないわね。人は誰でも皆クリエイティブだから。デザイナーでも建築家でもアーティストでもシェフでもそれぞれにクリエイティブでなければやっていけないでしょう。みなそれぞれに立派なクリエーターだと思うわ。
Q:いままで出会った中で、あなたが最もパワフルだと思った人はどなたでしょうか?
アイリス:そんな人思いつかないわ。
Q:ご主人やアイリスさんの長生きの秘訣を教えて下さい
アイリス:長生きの秘訣かどうか分からないけれど、私のモットーは
I like to be a creative
I like to do things
I like to do make things
I like to make people happy
I like make people laugh
ⓒIRIS APFEL FILM, LLC.
Q:この映画を観る人、特に今の若い人たちにメッセージをお願いします。
アイリス:繰り返します。“Know who you are = 自分を知ること”オリジナルであること。そして自分自身であれば、その人ならではのスタイルは自然に生まれてくるのよ。私の展覧会を観た人が私に「あなたの展覧会を観て、他人と同じように服を着るのはやめたわ」と言ってくれたのだけど、それはとても嬉しい言葉だったわ。私の映画からそういう事を学んでくれれば嬉しいわ。
『アイリス・アプフェル!94歳のニューヨーカー』
3月5日(土)角川シネマ有楽町他全国ロードショー