『シビル・ウォー アメリカ最後の日』A・ガーランド監督来日プレミア開催「トランプに票を入れてはならない」

A24史上最高のオープニング記録を樹立、更に興行収入ランキングで2週連続1位を獲得し話題沸騰中の映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(10/4公開)。

今や世界を席巻するA24が、史上最大の製作費を投じ、アメリカで起きる内戦を描く『シビル・ウォー アメリカ最後の日』。メガホンを執ったのは、『28日後…』で脚本を担当し、長編デビュー作『エクス・マキナ』で 第88回アカデミー賞(R)視覚効果賞を受賞する快挙を果たしたアレックス・ガーランド。3月のサウス・バイ・サウスウエストで開催されたプレミア上映では「純粋に言葉を失う」「傑作だ。私の心臓は常に高鳴り続け、最終幕には顎が床についた」「今まで観たどの作品とも違う。最初から最後まで手に汗握る展開。狂おしいほどの緊張感だ」などと絶賛の声が相次いだほか、公開前からSNSを中心に大きな話題になっており、世界71の国と地域で公開を迎えた本作は、2週連続で全米1位を獲得している。

8月25日に本作のアレックス・ガーランド監督の来日を記念して登壇プレミアイベントが開催!大統領選の行方を世界中が固唾をのんで注目するアメリカで、今、起きるかもしれない「アメリカ内戦」を描いた今作。先行きが見えないこの時代、なぜこの作品を完成させたのか?など監督に町山智浩が迫った。

鑑賞ほやほやの日本の観客を前に「私と日本の出会いは1980年代で『AKIRA』がそのきっかけです。『AKIRA』は自分が見たことのある世界を描いていながらも、同時に自分の知らない世界も描いており、既視感がありながらちょっと違う奇妙さもあって、そこに惹かれました。そして1996年に初来日して日本を直に目にして、なるほど『AKIRA』はこういう世界を描いていたのかと納得しました」と親日ぶりをアピール。

町山から「本作のアイデアはどこから?」と尋ねられたガーランド監督は「この物語は私の空想から飛び出した突飛なストーリーではなく、過激派の台頭や分断など今の世界で繰り広げられている事実をそのまま反映したつもりです。本作で描かれている事が本当か否かを問うのではなく、この出来事はいつどこで止まるのか?それを問うべきです。この映画はフィクションではあるけれど、50%は実際に起きていることだと思っています」と現在進行形の世界情勢のリアルを反映していると返答した。

町山は本作を観て、リベラルなカリフォルニアと保守的なテキサスが同盟を組むという、一見想像し難い設定に驚いたという。この設定についてガーランド監督は「映画を観た観客への思考実験だ」といい「政治的に相反する考えを持つ二つの州を組ませる設定を通して、私は皆さんにこう問いかけたい。このような状況下においてテキサスとカリフォルニアが結託するのは想像しがたいことですか?と。法治国家であるアメリカを崩壊させ、市民を虐げている独裁政権というファシズムに対して彼らは手を組んで抗おうとする。その姿は理にかなっていると思います。右対左の結託という構造がファシズムに抗う事よりも重要なことだとも言うのでしょうか?右か左かの話ではありません。これはファシズム対デモクラシーの戦いなのです」と話した。

またキルステン・ダンスト演じる主人公のほか、主要な登場人物たちをジャーナリストした理由を問われたガーランド監督は「現代の特徴としてジャーナリストは敵視されがちで、それは腐敗した政治家連中がジャーナリストを矮小化しようとしているからです。私の母国イギリスでもジャーナリストたちがデモを取材したりすると、デモ参加者たちから唾を吐かれたり、暴力を振るわれたりします。これは狂気の沙汰です。ジャーナリズムとは国を守るため、我々の自由な生活を守るために必要なのにバカな政治家たちが彼らを悪者に仕立て上げています。なので本作ではジャーナリストたちをヒーローとして描きたかったのです」と狙いを明かした。

劇中では、戦っている相手が兵士なのかゲリラなのかわからない混乱した状況が巧みに描かれるシーンがある。町山からの指摘にガーランド監督は「ご指摘の通り、意識的に曖昧にしました。かつてアメリカで勃発した南北戦争は奴隷制度反対派VS賛成派というシンプルな戦争でした。しかし現在における戦争はそのようなシンプルさが崩壊し、答えを出すのも複雑でモラルの線引きも非常に曖昧です。そんな確信を持てないカオスな状況を描いたつもりです」と述べた。

町山は、予告でも印象的に切り取られた白人の兵士による台詞「What kind of American are you?(お前はどの種類のアメリカ人か?)」を名台詞だとピックアップ。これにガーランド監督は「そのセリフは、単純明快な質問であると同時に、非常にバカげた差別的な問いかけです。ここで描きたかったのは人種差別。誰を射殺し、誰を助けるのか。その選択をあの男は人種で決めている。本作は社会の分断を扱っています。それを描く以上、レイシズム描写は必須でした」とセリフに込めた意味を解説した。

クライマックスにはワシントンD.Cが戦場と化す、衝撃的バトルシーンがある。町山が「兵士役の動きが俳優とは思えないくらいリアル」と絶賛すると「それは彼らが実際に従軍したリアル米兵だからです。武器の構え方、体の動き、会話はすべて本物。最も撮影しやすかった場面でもあります。私の演出は『いつも通りにやって』だけでしたから。まさにドキュメンタリーを撮る様に撮影しました」と回想し「そしてあのシーンを撮影した体験が次回作の着想点にもなりました。(本作と比較して)低予算ではありますが、次回作は大戦争映画です」と報告した。戦闘シーンのリアルを追求するべく、普段以上の火薬を使用したというガーランド監督。「銃撃シーンはあまりにも爆音過ぎて、警察が駆けつける騒ぎにもなりました。でもリアルにすることで俳優はリアルに驚き、リアルに反応します。だから必要以上に火薬量を増やしたのです」と淡々と述べるガーランド監督に、町山は「ユア・クレイジー!」とジョーク交じりに最敬礼していた。

最後に町山から、本作を通して世界へのメッセージを求められたガーランド監督。米大統領選を視野に「伝えたいことはただ一つ。ドナルド・トランプに票を入れてはいけないという事です!」と力を込めていた。

『シビル・ウォー アメリカ最後の日』
10月4日 (金) TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開

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